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世界最大級のテック・音楽・アートの祭典 SXSW(サウスバイサウスウエスト)2019。 非公式イベントとして「The Kitchen Hacker’s Guide to the Food Galaxy in SXSW」が、アメリカ・オースティン郊外にある車の整備工場だったスタジオで開催された。
本イベントはUMAMI Lab(ウマミラボ)、立命館大学、東洋ガラスが主催。さらに、コンセプトに共感した世界的に有名なシェフ・杉浦仁志氏が加わり実現。日本酒100%のゼリーや、日本のだしと西洋の素材を使ったユニークなおでん等が振る舞われ、参加した約70名が楽しい時間を過ごした。しかし、一般的な日本の食文化をPRするイベントではなく、「食のインターフェースの在り方、持続可能な未来のレシピを考える」といった内容が、本イベントの柱。
サステナブルな「うまみ」を追究
UMAMI Labが手掛けたのは移動式のポップアップだしラボラトリー。サイフォンやハンドドリップでのだし抽出に必要な全ての機材を、1つのスーツケースに収め、日本の伝統的なだしの素材と、現地の食材、調味料、酒をブレンドすることで、その土地に眠っている「うまみ」を発見する、というもの。発起人はデザインディレクターの望月重太朗氏。
日本の伝統の旨味を凝縮させたダシを各種展開する中、今回はサステナブルな食を考えたダシを開発した。
捨てるはずだった野菜くず(玉ねぎの皮、人参の皮、野菜のへた、乾燥しいたけなど)から抽出したダシ。
シンギュラリティが予想される2045年には、人口は90億人に達し、食糧危機も発生すると予想されている。今回のダシは、食糧難が起きた場合でも手に入りそうな、わずかな資源だけで、おいしいだしを引くために開発されたものだ。
立命館大学の江戸未来フードシステムデザインラボが参加し、「食を運ぶ」という観点から未来が見えるブースを出展。
江戸時代に象徴される日本酒は、それ自体の評価や人気も高い上に、日本料理と切っては切れない関係がある。海外での日本食ブームに影響を受け、日本酒の需要も高まっている。しかし、現在、どの国でも旅行の際の土産として酒類の国外持ち出し量は制限されていて、もちろん日本酒も制限対象となっている。
そこで、江戸未来フードシステムデザインラボは菓子メーカーのユキオーとタッグを組み、輸送できる日本酒として「100%日本酒ゼリー」を開発。
今回のイベントでは、杉浦シェフが、それを現地の食材と掛け合わせた料理を作り、参加者に振る舞った。
この取り組みは、宇宙食を想起させる開発でもある。
というのは、宇宙空間だと液体は飲みにくく、調理もしにくい。宇宙空間でアルコールは今は厳禁でも、将来はそうでないかもしれない。そう考えた時に、アルコール分や風味を残しながら、「固形化する」という技術が将来的に宇宙食として生きる可能性がある。
東洋ガラスが「Alchemist Bar ─taste is who you are─」を展示。これは、味覚共有というもので、北海道のクラフトジンに、ドライフルーツやハーブ、スパイスなどを組み合わせて自分好みのお酒をつくり、シェアするという取り組み。
現場で好評だったのは、ジン×切り干し大根 ジン×ゆずこしょう など。新たな味の発見があちこちで見られた。食を通じて人種の壁、世代の壁を乗り越えたコミュニケーションが生まれた。
食のプロトタイピングから考える未来
帰国したばかりの主催者の一人、UMAMI Lab主宰の望月氏から話を聞いた。
望月:「昆虫食や培養肉など、今年のSXSWでは新しいフードや技術についてもかなりホットトピックで、様々な場所で語られていました。ただ我々はそのような新しい技術に注目しつつも、食を楽しむ現場や食体験自体をアップデートさせることに力点をおいています。まず人が口にするもの、それ自体がちゃんと美味しく、そしてその空間自体が楽しい。美味しくて楽しいという現場をしっかりと作りながら、ポジティブな気持ちでこれからやってくる様々な課題や危機に向き合うこと。その活力を産むのが、我々が毎日向き合う食事ですし、コミュニケーションの中心地である食卓です。そこを実験現場にしながらデザイン、サイエンス、未来視点、アートでアップデートすることを目的とした活動を世界中で起すこと。UMAMIを通じて人や地域の持つポテンシャルを最大化させることこそ、この活動の目的です」
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世界の人口は2050年までに93億、2100年には110億人にまで膨れあがると国連は発表している。そんな時代の先駆けとして、今回のイベントは「未来の日本食の可能性」を世界にアピールするものとなった。参加した70名にとって、日本食の素晴らしさを再認識すると同時に、改めて「食の現在地とこれから」について真剣に考えるいい時間になったのではないだろうか。