今ではすっかり国産のブランドマグロとして定着した、大間産の天然本マグロ。イカや青魚などの餌が豊富、かつ流れの激しい津軽海峡で棲息するため、上質の脂がのり、身が引き締まっているのが特徴だ。
身の味は濃く脂の甘みも濃厚で、「大間まぐろ」のブランドで高額な卸値で取引。豊洲市場の初競りで高値がついたり、ベテランの漁師が一攫千金を狙って一本釣りで挑んだりと、大間マグロにまつわる様々なストーリーを、耳にしたことがある方も多いのでは。
大間の町を訪れる前に、まずは本州最北端の地の、大間崎へ。看板が建つ園地から600mほど沖合に浮かぶ弁天島には、白黒ボーダーの塗色の大間埼灯台が建つ。あたりの海は底が見えるほど澄み、凪いで穏やかな津軽海峡とともに、北の地ながら明るいイメージの岬である。
大間崎付近は一大観光地で、「こヽ本州最北端の地」碑と「まぐろ一本釣の町おおま石像」は、人気の記念撮影スポット。隣接するレストハウスには、2019年に豊洲市場で3億3360万円で落札された「縁起物マグロ」の顔出し看板が、津軽海峡を見下ろすように据えられている。
レストハウスの前には、演歌歌手の福田こうへいが歌った「一番マグロの謳(うた)」の碑があり、その年の初競りで最高値がついた「一番マグロ」を釣り上げた、歴代の漁師の名が刻印。岬の付近をめぐれば、大間のマグロにまつわる様々な記録を学べる。
大間漁協の付近が大間漁港の中心で、漁協のそばの荷揚げ場は、マグロが水揚げされ吊り上げられる場所。8月下旬から初冬にかけてが漁期で、水温が低くなるにつれて脂ののりがよくなるという。タイミングがよければ、ここで大物のマグロの水揚げに遭遇することも。
荷揚げ場の先には、埠頭に沿った係留施設が続き、びっしりと停泊するマグロ漁船が壮観だ。大間のマグロ漁の漁法は、テグス1本でマグロを釣り上げる「一本釣り」が主流。そのため漁船は比較的小型で、船上で漁師とマグロが、一対一の勝負を繰り広げる様子を想像してみる。
ちなみに一本釣りは、一尾ずつていねいに漁獲するのでマグロの身が傷まず、釣り上げてすぐ血抜きするので鮮度が保たれる利点も。長い幹縄から針をつけた枝縄を多数垂らす「延縄漁」とともに、漁獲されたマグロの状態がよいことも、「大間まぐろ」の市場での高評価につながっている。
商店街の背後の高台には、神社仏閣が集中。大間の町を見守るように構える大間稲荷神社は、海上の神として媽祖(まそ)を祀る社。ほか、七福神が並ぶ曹洞宗福蔵寺、魚鱗一切之霊供養碑が立つ八大龍王殿、聖観音を祀る阿弥陀寺なども。
豊漁を願う漁師、安全を祈る家族それぞれの、心の拠り所である。
町中には大間のマグロを味わえる飲食店も多く、漁港に近い「浜寿司」にて、マグロ丼をいただくことに。「大間まぐろ」の赤身が酢飯の上を埋め尽くさんばかりの量で、柔らかくみずみずしく実に芳醇な味わい。
ゆかりの漁港や漁師町を訪ね歩いたおかげで、マグロのうまさがひとしおに感じられる、本州最北の漁港の町散歩の締めくくりである。