Culture

おさんぽ案内人が行く久留里散歩 井戸水が豊かな山里で銘水と銘酒を堪能

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千葉駅から内房線で木更津へ向かい、そこからJR久留里線のディーゼルカーに揺られること約45分。房総半島のほぼ中央に位置する久留里は、かつての城下町の風情を残す「名水の里」である。

町のいたる所に井戸が点在し、良質な地下水が絶え間なく湧き出るこの地は、古くから豊かな水とともに歩んできた歴史を持っている。

久留里線は房総半島の中ほどを横断するローカル線
戦国期に里見氏に築かれた久留里城の城下町でもある

豊かな雨量を蓄え育んだ、この地の地形と地質


この地が名水に恵まれる理由は、関東随一とも言われる降水量にある。年間2000mmを超える雨は清澄・三石山系の山林に浸透し、関東ローム層の砂層を通過することで濾過される。

地下400〜600mの大深度水脈に蓄えられた水は殺菌不要なほど安全で、「生きた水・久留里」として今も人々の暮らしを支え続けている。

市街のすぐ背後に山々が迫る立地

久留里駅前の交流広場には、自由に名水を汲める「名水水汲み広場」が設けられている。市街地を歩けば数多くの井戸に出会うが、その多くは無料で開放されており、遠方からポリタンクを携えて訪れる人も珍しくない。

駅前の久留里商店街にも近い交通至便な立地
蛇口も設けられていて水が汲みやすい

生活の場に当たり前のように清冽な水がある光景は、訪れる者の心を穏やかに潤してくれるはずだ。

自噴する水が守り抜かれた背景と独自の掘削技術「上総掘り」


江戸時代、久留里藩主の黒田氏は井戸がある土地の税を免除し、修理や清掃には助成金を出すなど、この貴重な資源を手厚く保護した。新町界隈には今も井戸が集中しているが、それは藩を挙げて水を守った歴史の証左でもある。

町には200本近い井戸があり、そのほとんどが保健所の検査をクリアした飲用可能な水である。井戸に備えられた高さ1〜2mほどの鉄筒は、自噴する水の圧力を受け止め、貯める役割を果たす。ステンレス製のふたで衛生を保ち、蛇口からは常に新鮮な水があふれ出す。

新町の県道沿いにはたくさんの井戸の鉄筒が並ぶ
飲用のほか洗い物など生活用水にも使われている

この鉄筒のある風景は、久留里ならではの象徴的な意匠だ。水温は年間を通して約15度に保たれ、冬は温かく夏は冷たい、まさに自然の恩恵そのものである。

こうした久留里の水景を支えるのが、江戸末期に確立された「上総掘り」という独自の技術だ。竹ひごの弾力を利用して鉄管を打ち込み、深い地層まで掘り進めるこの手法は、高い水圧による自噴を可能にした。

地中の水脈から力強く湧き出す水は、町のあちこちで潤いある豊かな風景を描き出しているのである。

地下に断層があるため高い水圧が生じる

新町の中心部には、江戸初期の寛永年間に掘られた「久留里の大井戸」がある。かつては町唯一の水源として、人々ののどを潤した。また「新町元井戸」は地下652mから毎分400リットルという圧倒的な湧出量を誇り、岩組の水場は実に豪快だ。

久留里の大井戸。現在は使われず地域の方々が管理
新町元井戸。水量が豊かで周囲に水音が響く

銘水が育んだ珠玉の一献を、蔵元で堪能する


中硬水でミネラルを含む久留里の水は、コーヒーや豆腐作り、蕎麦打ちにも最適と言われる。そして良質な水がある場所には、必ずと言っていいほど旨い酒がある。

君津市には現在、六つの造り酒屋が点在しており、首都圏の市町村としては最多の蔵数を誇る。久留里の水で仕込まれる酒は、天然の有用成分を豊富に含み、キレの良さとまろやかな口当たりを両立させる。

1716年(享保元年)創業の藤平酒造は、代表銘柄「福祝」で知られる老舗だ。自社田で育てた酒米と、久留里の水を組み合わせて醸される酒は、地元の風土を丸ごと詰め込んだような力強さがある。

久留里商店街の東寄りに位置する藤平酒造
湧出量は毎分126リットル。口当たりがやわらかな湧水

店先に立つ昭和初期の鉄筒からは、今も地下400mから湧き出す水があふれ、酒造りの現役の源として活躍しているのだ。

1885年(明治18年)創業の須藤本家には、深さ500mという日本有数の深さの自噴井戸がある。洗米から仕込み、清掃に至るまで、すべての工程にこの贅沢な地下水を使用する。

代表銘柄「天乃原」の純米吟醸は、キリッとした辛口ながら、水のまろやかさが余韻として残る逸品。店先の湧水に触れると、その清涼感に驚かされる。

店頭の軒先に杉玉が吊るされた須藤本家の店舗
本醸造から純米大吟醸まで「天乃原」が各種揃う

駅前にある「生きた水久留里酒ミュージアム」は、酒好きにはたまらない聖地だ。「かずさ八蔵」の銘酒が揃い、サーバーで試飲も楽しめる。レジでメダルを購入し、お猪口を手に好みのボタンを押せば、好みの蔵の一杯が注がれ、各蔵のはしご酒だって楽しめる。

駅前に建つ石造の建物はかつて米の貯蔵庫
かずさ八蔵の19種の銘柄の試飲ができる

久留里の町には、江戸時代から大切に守られてきた水文化が、今も鮮やかに息づいている。井戸を巡り、冷たい水でのどを潤し、仕上げに地酒を味わう。名水の里を歩けば、自然の恵みを敬い、共に生きてきた日本人の原風景が、清らかな流れとともに心に染み渡っていく。

より詳しい動画はこちらから視聴できます。

CREDIT
Videograp :カミムラカズマ
Support :モゲ

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