阿蘇のカルデラ山麓に数多く湧き出ることで知られる、南阿蘇地方の湧水群。阿蘇五岳(あそごがく)や外輪山に降った雨水が、25~30年をかけて地下を流れ、山麓へと湧出する伏流水で、その数は1500ヶ所以上ともいわれている。
阿蘇五岳の南麓には、「南阿蘇村湧水群」の11ヶ所の水源が点在。生活用水や農業用水として利用されている、地元の人々にとって欠かせない水源だ。洗濯や農作物の洗浄、飲用に使われるほか、清冽な水を訪ねて多くの観光客も訪れる、まさに「水の生まれる里」なのである。
駅の近くにある寺坂水源は、南阿蘇鉄道の鉄橋の直下から湧き出している。底から水が吹き出す池のそばには、芋の皮むきに使う「芋車」が設置。定期的に水源と洗い場の清掃も行われるなど、地域に親しまれてきた湧水である。
線路沿いに高森方面へやや進み、田園地帯に出たところには、湧沢津水源がある。南阿蘇町内の湧水では、水質が最も柔らかいと評価され、湧出量も毎分5tと豊富。近隣の民家へ供給されているのに加え、あたりの水田を潤す農業用水にも利用されている。
隣の中松駅まで歩いていく途中、駅の手前には、岩下神社の参道沿いに湧く、池の川水源がある。池の中央にある兜石(かぶといし)は、農作物の出来を占ってくれる岩。見えなくなるほどの水量がある年は雨が多く凶作に、石がしっかり露出している年は晴天が多く、豊作になると伝えられている。うっそうとした樹木に囲まれた、神秘的な雰囲気の水源だ。
伝説によると、池には仲の良い男女のカッパが住んでいて、いたずら好きな男のカッパが神様に追放され、今も女のカッパが帰りを待っているという。池には女のカッパの像も立っており、透明度が高い水面には、阿蘇外輪山が逆さに映る景観が神秘的だ。
中松駅からさらにもう一駅先の、南阿蘇白川水源駅から徒歩5分の場所には、熊本県を代表する白川水源がある。阿蘇五岳の高岳の裾野に位置し、熊本県内を横断する全長74kmの白川の源流で、年間を通じて水温14度の水が湧き出している。
奥寄りに構える白川吉見神社は、高森草部吉見神社(たかもりくさかべよしみじんじゃ)の主神である国龍大明神(くにたつだいみょうじん)と、水神の罔象女神(みつはめのかみ)を祀る、白川水源の鎮守。
境内のそばに湧水地が広がり、澄みきった水の先に見通せる池の底からは、砂を噴き上げながらこんこんと水が湧きだしている。
湧出量は毎分60tで、南阿蘇村湧水群屈指の量。水質がよく、そのまま飲用できる湧水としても知られている。
国鉄高森線は、宮崎県の延岡(のべおか)から延びていた高千穂線と結ばれる予定だった。しかしトンネル工事で水脈にあたり、大量の出水に見舞われ、高森町内の湧水も枯れて断水する事態に。
その結果、鉄道の延伸は断念して、トンネル内に湧き出た湧水を、町の飲料水や農業用水に充当することに。現在では高森町の、貴重な水源地となっている。
掘削された2055mのうち、一般公開されている範囲は坑口から550mまで。毎分32tの湧出量のおかげで、トンネル内は通年17度に保たれている。湧水が流れる水路沿いの各所に、イルミネーションやオブジェなどの装飾が施され、なかなかロマンティックな内装。
最奥は掘り残された岩盤をイメージした壁面から、水がごうごうと滝のように流れ落ち、脇には湧水を守るように、水神の碑も立っている。
南阿蘇村の湧水群は、阿蘇の自然と人々の暮らしが長い年月をかけて紡いできた、まさに「水の宝庫」。四季を通じて変化する自然の恵みを、列車に揺られながら訪ね歩く旅へ、出かけてみてはいかがだろう。
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