今回は、世界最高峰の国際芸術祭ヴェネチア・ビエンナーレをご紹介する。
カウンターカルチャーの最前線を追う身体改造ジャーナリストが「なぜアートを取材するのか?」と疑問に思う人がいるかもしれない。しかし、現代アートには従来の価値観に対するカウンター性があり、ますます多様化する世界を読み解く鍵が潜んでいると思うのだ。
たとえば、2013年のヴェネチア・ビエンナーレでは、マーク・クインが身体をテーマにし、彼の巨大作品が水上バスからみえたときには胸踊った。彼は身体改造実践家たちの立体作品も作っていて、自分の血液を冷凍して作った肖像も展示していた。
また同年、チリ・パビリオンではアルフレッド・ジャーが5メートル四方のプールに芸術祭会場の精巧な模型を作り、数分おきに水没する作品で芸術祭の権威主義を批判した。そのような作品を容認する芸術祭の懐の深さにも感動した。
今回は、世界最高峰の国際芸術祭ヴェネチア・ビエンナーレの現場からお届けする。
女性&マイノリティ重視の企画展と対照的なベテラン勢の展覧会
ヴェネチア・ビエンナーレとは、イタリアの水の都ヴェネチア(ヴェニスとも呼ばれる)で2年に一度行われる国際芸術祭で、今回で第59回目と歴史は古く、いわば「国際芸術祭」というものの形を作り上げてきた存在である。
もともと各国がそれぞれ代表のアーティストを選出し、国別で争うものであったが、1960年代後半のカウンターカルチャーの時代を経て、国家主導の芸術祭のあり方にアーティスト側からの批判や抵抗が相次ぎ、芸術監督が国や文化を超えて世界中のアーティストや作品から選出する企画展を中心とする国際芸術祭に変化した。
それでも各国のパビリオンによる国別展示は現在も行われており、ビエンナーレに合わせて開催される関連展示も多く行われている。
2022年のビエンナーレは4月23日から11月27日まで開催され、企画展はセシリア・アレマーニが芸術監督を務め、シュルレアリスムの芸術家レオノラ・カリントンの小説にちなんで「ミルク・オブ・ドリームズ」というタイトルが付けられた。
今回は58ヵ国から200人以上のアーティストが参加したが、そのうち180人以上が国際芸術展初参加、さらに女性および性的マイノリティ(従来の性別概念に当てはならない、男性以外)が9割を占めるビエンナーレの歴史始まって以来の前代未聞の企画展となった。筆者としては、ジェンダー、先住民、マイノリティなどをテーマとした未知の作家たちが多く、とても新鮮だった。
企画展のなかでも注目していたのは、中国のアーティストのルー・ヤンである。彼女は3Dアニメーションの技術を使って、自身をモデルとした性別不明のキャラクター「ドク」として登場し、都市や荒野や宇宙空間などを舞台にコンピューターゲームのような世界で身体の限界や生死の境も超えて淡々と動きまわる。
手前味噌になるが、筆者自身、ルー・ヤン本人と交流があり、彼女のキャラクターが身に着けているコスチュームの文様をデザインしたのは、縄文タトゥーの復興プロジェクト「縄文族 JOMON TRIBE」のタトゥーアーティストの大島托である。
女性&マイノリティ重視のビエンナーレの企画展とは対照的に、ベテラン勢の力作が圧倒する展覧会も際立った。
そのなかでもアニッシュ・カプーアは2つの大規模個展を開催し、鏡面作品で鑑賞者の身体を湾曲させるマトリックス体験、血のりのような赤い絵具を大砲で撒き散らし、暗黒顔料ベンタブラックはブラックホールのようでした。
「ヒューマン・ブレインズ」展は本物の脳を切開する解剖映像、頭蓋骨に穴を開ける身体改造トレパネーションの資料もあった。
また、「オン・ファイア」展は、火や火炎放射で制作する危険な作品が並び、緊張感が漂った。
アンゼルム・キーファーは、1577年のヴェネチア大火災を作品化、高さ15メートル、2000人収容可の講評議会の間を覆い尽くす巨大なインスタレーションが圧巻だった。
現代アートのカウンター性が僕にとって面白いのは、過激さばかりでなくユーモアもあわせ持ち、見せてはいけない、作ってはいけないものを作品化してみんなを驚かせてくれることだ
そんな現代アートのカウンター性を見逃すな!
La Biennale di Venezia