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近年、脳や体の発達に障がいを抱える子どもたちへの、ICT(情報通信技術)の活用が注目されています。ICTの活用によって、子どもたちの特性や発達段階に応じた、様々な教育効果が期待されています。
4月17日、iPadを5年前から教育の現場に導入した、埼玉県立熊谷特別支援学校で高等部を担当されている、内田考洋教諭の、美術の授業にお邪魔させていただきました。
世界が賞賛した授業
耳を疑うような先生の言葉から始まった授業は、体育祭に向けた応援の絵を作る美術の授業。生徒8人、スタッフ10人合計18人が集まった教室には、縦5m横3mほどの大きさの、紙を何枚も貼り合わせて作られた大きなキャンバスが置かれていました。
そこへ、生徒たちが紙を落としていきます。満遍なく紙を敷き詰めたら、その上に、10や20と札が貼られた円錐形のポールを何本も立てていきます。
これで、ベースとなるキャンバスが完成。
ここに、黄色と青色の異なるインクを付けた、ボール型ロボ「Sphero」を置き、iPadで操作をして、キャンバスの上を走らせ、線を描いていきます。
Spheroの操作は、「どれだけ多くのポールを倒すか」というゲームになっています。そのため、子どもたちは集中力を切らすことなく、エキサイトしながら楽しんでいました。
30分後、8人がキャンバスいっぱいに引いた無数の線は、太さ、長さ、軌道、どれをとってもとても不規則で、オリジナリティー溢れる絵に仕上がりました。
肢体不自由の子どもたちの可能性を広げる授業
正直だまされました。先述したSpheroとiPadで作った絵が完成形かと思いました。が、まさかの下絵とは…先生に、下絵を作った理由を尋ねました。
内田:0から1を生み出すことって僕らでも大変なように、彼らにも大変なことなんです。だから、何もしないで描かせると、とても小さい絵になったり、奥行きのないものになったり、こぢんまりした絵に収束しがちなんです。別に、それは発達過程で通る道なので、悪いものではありません。しかし彼らがもっと自由に、ダイナミックに個性を出して欲しいという思いもあって下絵の上に、実際には描いてもらうようにしています。
ランダムに引かれた線が、感受性豊かな子どもたちに、様々な物を想起させるものとなり、よりダイナミックに絵が描けるようになるということなんだそうです。
さらに、iPadの音声認識機能を用い、発音練習や、作文(肢体不自由を抱える子どもたちには鉛筆を持って正確に書くという行動が難しい)の授業をおこなうほかにも、理科の授業では、顕微鏡やルーペなどを覗くことが難しいので、拡大鏡がわりに使用し、動画を撮影して観察記録を取ったりと、様々な授業でiPad活用の幅が広がっています。
内田先生いわく、自分で描いた絵や、表現したものを、他人に見てもらうということで、子どもたちは表情がいきいきし、自信が持てるようになり、授業に対する積極性が高くなるのだそうです。
生徒たちの表情を出していきたい
元々、施設の支援員を勤めていた内田先生、そこで子どもと触れ合ううちに、学生の頃描いていた夢である「先生」に再度憧れを持つようになったそうです。通信教育で単位を取得し、見事教員試験に 合格。
埼玉県立熊谷特別支援学校で、特別な支援を必要とする障がいを抱える子どもの特別支援教育に10年間携わり、その間にiPadやスイッチ教材など、ICTを活用した教育を多数実践してきました。
内田:元々、特別支援学校と言われる学校は、普通科の学校に比べてICT機器導入は早くからおこなわれてきたという背景があります。
導入のきっかけとなったのは、進行性の重度の障がいのある子どもたちを担任した時でした。今まで学校で使っているICT教材を、子どもたちが使えなくて、悩んでいました。ICT推進委員会に所属して勉強したり、1年間大学などで研修を積んだ結果、生徒たちが主体となって自分の考えをビジュアル化したり発表できる機器として、iPadに魅力を感じ、自分の授業に取り入れるようになりました。
内田:「自分でできる」を増やして、どんどん表現していって欲しいです。狭い世界の中にいて欲しくないんです。人とどんどんコミュニケーションを取って人気者になってもらいたい。ICTやiPadは、子どもの〝できる〟を増やすための有効なツールであり、教師はそれを1つでも多く実現するために効果的な環境を用意することが重要だと考えています。
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内田先生は現在、校内で他のいろいろな教科の教師たちと密接に協力して、iPadや幅広い教育アプリケーションを授業で実際に取り入れられるようにしています。
iPadは、生徒たちの明るい未来を導く魔法の道具としての機能するだけでなく、生徒の成長を観察し評価する教師たちの毎日を支える、大切なツールともなっています。