2023年(令和5年)8月26日に開業した宇都宮ライトレールは、次世代型路面電車システム「LRT(ライト・レール・トランジット)」により運行される鉄道。全線新設での開業は日本初で、JR宇都宮駅東口を起点に清原工業団地を経て、芳賀町の芳賀・高根沢工業団地まで、総延長15kmを所要時間50分ほどで結んでいる。
LRTはいわば、従来の路面電車の進化系といえる交通システムだ。車両は低床で乗降がしやすい、揺れが少なく乗り心地がよい、運行の定時制が高い、動力源が電力のため地球環境に優しい、専用の線路に乗り入れての高速運転が可能、などの利点があり、現在は世界的にも注目が高まっている。
路線は宇都宮駅から東寄りの市街地、大規模商業施設、文教地区、緑地公園や競技場、工業団地などを経由しており、開業以来市民の足としてすっかり定着している。LRTに乗るのを目的に訪れる観光客も増えており、宇都宮の街のシンボルとしても人気が高まってきているようだ。
LRTでバスケ応援や日帰り湯へ
宇都宮ライトレールの乗り場・宇都宮駅東口停留所は、JR宇都宮駅から連絡通路で直結している。車両は黄色と黒を基調とした、スタイリッシュなデザイン。改札口はなく、乗降時に交通系ICカードを扉の読み取り機へかざす仕組みだ。
電車は出発すると左へ大きくカーブを切って、ビルとビルの谷間を抜けると市街の東西を貫く主要道・鬼怒通りへ。宇都宮大学陽東キャンパス停留所までは、道路の上を走行していく。路面電車は昭和40年代以降、クルマの普及による交通量の増加で全国から姿を消していったが、近年は都市交通のインフラとして見直されつつある。ちなみに路面電車の新規開業は、国内では75年ぶりなのだという。
駅東公園前停留所は、アメリカのプロバスケットボールリーグ・NBAでも活躍した田臥(たぶせ)雄太選手が所属する、B1リーグ宇都宮ブレックスのホームアリーナ「ブレックスアリーナ」の最寄り。また、宇都宮大学陽東キャンパス停留所は、大規模商業施設の「ベルモール」と宇都宮天然温泉「さくらの湯」の目の前。このあたりまでは短い区間の利用客も目立ち、市街を移動する際の市民の足として手軽に利用されている。
市街交通と郊外鉄道が一体に
宇都宮大学陽東キャンパス停留所を出ると、道路の上から離れて専用の線路へ。高架線に入って大きくカーブしながら、広がる田んぼの上をまるで宙を走るかのように越えていく。平石停留所は本社と車庫が併設されている主要停留所で、宇都宮駅東口からここまでの区間運転の本数も多い。
平石停留所から先は路面を走る市街交通から、主に専用の線路を走る郊外鉄道へと役割が変わる。車窓の風景も一変し、のどかな田園風景が左右に展開。高架線を登り利根川の流れを越えていくところが、沿線随一の車窓風景のハイライトだ。上流寄りの河岸には鎌倉期の砦の跡が残る、飛山城跡の森も遠望できる。
作新学院大学をはじめ中学校と高校が周辺に集まる清陵高校前停留所を過ぎると、清原地区市民センター前停留所へ。事業所が集積する清原工業団地の最寄りで、付近には栃木県の高校野球の聖地「宇都宮清原球場」や、Jリーグ栃木SCの試合が行われる「栃木県グリーンスタジアム」も。宇都宮にゆかりがある様々なスポーツ観戦の際の交通アクセスも、宇都宮ライトレールの開業により格段に向上したという。
事業所の通勤輸送も重要な役割
電車はキヤノンの事業所群の間を通る、広々した並木道に沿った専用の線路を走行して、ゆいの森の住宅街を貫く芳賀バイパスへ出て再び道路の上を運行。芳賀町へ入り桜の名所であるかしの森公園を過ぎると、右手には芳賀工業団地に研究・開発拠点を置く、本田技研工業の広大な事業所の敷地が続いていく。
終点の芳賀・高根沢工業団地停留所は、この事業所の最寄り。かつては宇都宮駅へ専用の通勤バスが運行されていたが、宇都宮ライトレールの開業により廃止され、通勤にはこの路線の利用が促進されている。清原工業団地ともども、宇都宮駅と工業団地を結ぶ通勤の足となったおかげで、市街の道路の渋滞緩和にも貢献しているそうだ。
2023年11月からは1日乗車券も発売(大人税込1000円)、宇都宮餃子会とコラボした「餃子お食事付き1日乗車券」(同税込1300円)もあるので、LRTの沿線散歩と餃子の街の食べ歩きそれぞれを楽しみに、宇都宮を訪ねてみてはいかがだろう。
宇都宮ライトレール株式会社