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ChatGPTに代表されるAI(人工知能)が突き付ける課題の一つは、「人間にしかできないことは何か?」だ。ネット上の情報を組み合わせた「正解」は、AIが作れる。しかし、脈絡なく斜め上にジャンプする発想は、人間にしか持ちえない。型や枠からはみ出た思考ができる、そんな「へんな人」の時代が来ている。筆者が小野克樹さん(27)に注目する理由も、ここにある。
飛び級で異能βに
小野さんは今年、総務省が支援する異能vationプログラムで「異能β」に認定された。同プログラムは、「ICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援」するものだ。平たくいうと「へんな人」を探している。
小野さんは2022年に「破壊的な挑戦者部門」にノミネートされた。テーマは「これからメタバースで新たに生まれると予見される仕事にフォーカスした障害者の就労プロジェクト」。
通常は1年をかけてゴールに向かう。順調に成果を積み上げた小野さんは、いわゆる「飛び級」扱いで、わずか半年ほどで異能βに昇格した。
異能vationプログラムのサイトで「異能β一覧」をチェックすると、時代を引っ張るメンバーが並ぶ。小野さんの左側には、メディアアーティストの落合陽一さん。他にも化学者・発明家の村木風海さん、「無駄づくり」で知られる藤原麻里菜さんらもいる。
実力ありつつも謙虚
小野さんにはメールインタビューを実施した。まずは「異能βとなった感想」を聞いた。
「審査員が著名な方々ばかりなので、認めて頂けたことを嬉しく思っています。小数しかいない飛び級卒業だったことも、嬉しいです」
「しかし、異能βの方々はすごい人ばかり。単純には比較できませんが、実力不足と感じる部分もあり、ふさわしい能力を身につけていきたいです」
小野さんは、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の在学中から、ビジネスコンテストで入賞するなどの実績を持つ。
今回、動画を作るにあたって、これまでの歩みを一覧表で送ってもらった。中学校時代は「勉強が得意になり、学内でも全国でもランクに入っていたので、一目を置かれていました」とのこと。メールでのやり取りからも、地頭の良さを感じる。
早くから得意分野を見つけ、しっかりと努力を重ねた結果の異能βへの認定だ。「実力不足」なはずはないのだが、一途に自身の能力向上を誓っている。その姿勢は実に頼もしい。
「起業やイノベーションと障害」に関心
次に「これまで何に関心を寄せてきたのか?」と尋ねた。
「起業やイノベーションと障害です。障害分野の課題解決をしたいのですが、その手段として起業やイノベーションが最適と考えています」
「社会運動などの政治的な手段より、起業であれば、確実に早く目の前の課題を解決できます。また、そのビジネスがスケールして、社会を変えるイノベーションとなれば、もう戻しようのない変革になります」
「障害分野では、まだ解決されていない不条理な課題があると、日々感じています。その解決に取り組みたいです」
「命の選択を考えるうえでモデルに」
最後の質問は、小野さんが「自身の可能性をどう考えているのか?」にした。深く考えた言葉が返ってきた。
「延命するくらいなら死んだ方がマシと言う方や、延命しないで死を選ぶ方もいます。しかし、私はもっとよく考えて、もっと適切に知るべきだと思います」
「私がビジネスコンテストで入賞し、早稲田の大学院を卒業するなどの成果を出したのは、気管切開などの延命措置を受けてからです」
「寝たきりになっても、今の時代では環境が整えば何でもできます。私は大学院で論文を書き、働き、起業に取り組み、新しいコミュニティに参加し、新たな仲間を作りました」
「命の選択を考えるうえで、私が一つのモデルになれたら嬉しいです」
四つの「不可」抱えつつ
小野さんは、先天性の神経疾患と闘っている。中高時代は電動車いすで過ごしていたが、しだいに筆記ができなくなり、呼吸も苦しくなる。早大時代に電動車いすの操作ができなくなった。
2018年4月に早大大学院に進学したが、自力での呼吸が困難になり、2019年に気管切開の手術を受けた。1年間休学した間、著作権が切れた作品を集めたサイト「青空文庫」を読むなどして過ごした。
小野さんは自らの「障害の重さ」を以下のように端的に記す。
「電動車椅子の操作不可、座位維持困難、筆記不可、呼吸不可、発話不可」
四つの「不可」と一つの「困難」が並ぶ。確かに「できない」ことは多く、日常生活を過ごすのに介護が必要だ。
起業アドバイザーとしても活躍
しかし、インタビューで答えた通り、ネット時代の今、小野さんができることも多い。
小野さんが取り組むのは、異能β関係にとどまらない。現在、フリーランスとしてガイアックスと契約し、リサーチを担当。主にスタートアップ関連企業の情報を集め、記事にしている。また、2022年12月からは医療系スタートアップの起業アドバイザーもしている。
色々なコミュニティにも参加しており、小野さんと筆者はその一つで接点を持った。こうしたメディアへの出演やメールインタビューへの応答も、何ら問題ない。
「へんな人」たる小野さんは、これからも「異能」を生かし未来を切り拓いていくだろう。彼が障害者のために仕掛けることは、いずれ健常者にも広がる。
これからの活躍を楽しみにしたい。