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あって当然をなくしたくない……。早稲田大学の象徴の一つ「角帽」が消滅の危機に瀕しているとのニュースに接した時、私が抱いた感想だ。時は流れ、万物は流転する。他大学出身者には、「何それ、ダサくない?」とも言われた。それでも、唯一無二のフォルムの帽子は、未来につなぐ価値があると考える。細部に神が宿るごとく、角帽にこそ早稲田の魂が込められているからだ。
懐かし過ぎる紙製角帽
角帽は名前のごとく、帽子の上部が四角になっている、他に類を見ない学生帽だ。かつての早大生は揃って被っていたというが、私がキャンパスにいた1990年代後半には、あまり見かけなくなっていた。
ただし、私は在校時から親しみをもっていた。角帽が昔の早大生の定番アイテムだったことは、知っていた。漫画家・横山隆一氏のキャラクター「フクちゃん」が、被っていたイラストを目にしたこともある。
何より「紙製角帽」の存在が大きい。野球の早慶戦だったか。球場で渡されて、その場で二つのパーツを、手で折り曲げながら繋げた記憶がある。
今回、二十数年ぶりに紙製角帽を作る機会に恵まれた。「そうそう、こうやってここに折り込んだわ」。涙腺が緩くなるほどの懐かしさを覚えた。
「その帽子に名前があったとは」
私は早稲田大学本庄高等学院という大学付属校から早大に進学している。高校1年から大学校歌の「都の西北」を覚えた。否が応でも母校愛は芽生え、角帽を含めた、早大あれこれにも詳しくなった。
しかし、世代をまたいだ上、内部進学生でもなければ、角帽への思いは淡白になるようだ。bouncyインターンで現役早大生のIさんに、「角帽、何かイメージある?」と聞いてみた。彼は愛知県の中高一貫の進学校の出身だ。
「正直、応援部さんが付けている帽子で、学ランと同じく応援部さんの衣装のようなものだと捉えておりました。その帽子に角帽という名前があり、それが以前は早大生に広く用いられていたということは、今回初めて知りましたし、恐らく他の学生も知らないと思います」
「今の世代にこれを制帽として被れというのは難しいとは思いますが、そのような伝統のあるもの、早稲田独特の文化だということを学生に知らせる機会があってもいいのかなと感じています」
「角帽デー」の設定目指す
Iさんの言葉通りに、現在、角帽は学生から遠くなっている。こうした事態そのままに、角帽を製造・販売する店舗は、ごくわずかまで減少。早大伝統の角帽が、実は消滅の危機にあるという。
角帽=応援部のイメージは、Iさんだけでなく、私も持っている。応援部は大学当局から預かっている「校旗」を掲げる際、角帽を着用している。最も角帽と縁の深い存在と言える。
その早大応援部が、「角帽復活プロジェクト」を立ち上げた。2023年1月12日までを期限に、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で活動資金の支援を募っている。
第一目標金額の200万円を達成。記事執筆時点の22年12月下旬時点で、300万円の達成も視野に入れている。
クラファンの支援により、紙製角帽を復活させ、早慶戦や早稲田祭などで配布するという。また「角帽デー(角帽の日)」を新たに設定し、学内外に広く周知していくことも目指す。
現役学生や将来の早大生が角帽に関心を持つためには、接点作りが大切になる。復活プロジェクトが目指している方向性は、正しそうだ。
息の長い取り組みになるため、クラファンの支援は分厚くしたい。世に多数いる早大関係者は、時間に余裕ができるお正月休み、是非、応援部のHPかクラファンサイトにアクセスして欲しい。
角帽も在野精神も絶やさず
2022年11月23日の朝日新聞は、「エピソード大隈重信125話」(早稲田大学出版部)を引用しながら、角帽と早大創設者の大隈との関わりを紹介している。それによると、大隈は洋服店の主人に次のように要望したという。背景には、下宿代を踏み倒すニセ早大生が出てきたことがある。
「インチキ連のまねしようもない、世界唯一という帽子をつくって、どんな片田舎でも、ただちに早稲田の学生であるとわかるようにしてほしい」
早大の教育の基本理念を示す「早稲田大学教旨」には、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」が掲げられている。
早大の公式サイトによると、「『学問の独立』は、『在野精神』『反骨の精神』と結び合います」とのこと。私はこの「在野精神」を、権威や権力に依存せず、公職でなく民間、与党でなく野党であろうとする心持のことだと理解している。
角帽をつなぐことは、ちょっと大げさに言うと、この「在野精神」をつなぐことになるのではないだろうか。使い込まれた角帽は、反権威・反権力の雰囲気をまとっている。そこに私は「キモ可愛い」ならぬ「ダサ格好良さ」を感じている。