「人は亡くなるとどうなるの?」「お星様になるのよ」。こんな会話を交わした親子は、昔から世界に数多くいるだろう。科学技術の進歩で今、夢物語が現実になっている。それが「宇宙葬」だ。携わる日本人女性は、「大切な人が星となって輝いているので、毎晩会うことができる」とその魅力を語る。
米フロリダ州で打ち上げ見守る
2022年4月、SPACE NTK(茨城県つくば市)の代表・葛西智子さんは、米フロリダ州にいた。宇宙葬専用の人工衛星「MAGOKORO」を載せたロケット「ファルコン9」の打ち上げ現場を見守るためだ。
ファルコン9は、米国の宇宙ベンチャースペースXが発射する。同社は米電気自動車大手テスラなどを率いるイーロン・マスク氏の会社だ。
マスク氏の代理人との国際電話などを思い出しているうちに、発射期限が迫ってくる。宇宙に飛び立つ遺骨は5人とペット5匹分。メッセージカード3千枚も同封した。
「すごい綺麗」と万感の思い
今回の動画制作にあたり、葛西さんからロケット打ち上げ現場を撮影した映像を提供してもらった。発射直前、葛西さんは他の見学者と共に「スリー、ツー、ワン」とカウントダウンを始めた。
「ゼロ」と同時に、ロケット下部から煙が立ち込める。炎をあげながら離陸を始めると、葛西さんの歓声が湧き上がった。
「あーあー、ははは、やったー、ははは。すっごい眩しい。眩しい、すごい」
「おー、行った行った。行け!行け!行け!すごい綺麗」
35秒の映像に録音された声には、万感の思いが込められていた。
「英語できない」が開発会議に
葛西さんが宇宙葬の実現を夢見て、SPCE NTKを立ち上げたのは2017年。大手葬儀社での勤務を経て、2003年に独立してから14年後のことだ。
2018年5月には、「英語は全くできない」ものの、米国で開かれた国際宇宙開発会議に参加。15分間、熱いプレゼンをこなした。
宇宙葬に使う人工衛星はロケットで高度500~600キロに到達。5、6年ほど地球を回った後、大気圏に突入して燃え尽きる。カプセルに入った遺骨も同様の運命をたどることから、宇宙ゴミを出す心配はないという。
何より思い出の故人が長らく、空のかなたに浮かんでいる。その宇宙葬の可能性を訴えた。
マスク氏の代理人と国際電話
プレゼン後、とある日本人と話す機会をもった。偶然にもスペースXのエンジニアだった。葛西さんの熱弁が通じ、宇宙葬に興味を持ってくれた。
そして2年後の2020年夏、マスク氏の代理人から国際電話がかかってきた。日本語で約10分間、話した。マスク氏に通訳をしているのか、電話の向こう側から時折、英語が聞こえてきた。
その2カ月後、スペースXのロケット「ファルコン9」に人工衛星を載せられる契約を結んだ。そして、2022年4月、ついに宇宙葬の実現にこぎつけた。
宇宙葬貯金を始めようか
気になる価格は、手のひらサイズの遺骨50グラムで55万円。1人分の遺骨2キロで770万円~。ペット小動物1匹分は110万円~(いずれも税込み)。
高額ではあるが、故人が宇宙に想いをはせていた場合などには十分検討に値するだろう。筆者もいまからコツコツと、「宇宙葬貯金をしてもいいかも」と考え始めた。
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樹木葬、海洋葬などに続き、宇宙葬も当たり前の時代に?