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マイクロチップ埋め込みや人間のサイボーグ化、フックを貫通して吊り下げるボディサスペンションなど、最先端の身体改造カルチャーを紹介している当連載。今回は、自らの腕に「第3の耳」を埋め込んでいる現代アートのパフォーマー、ステラークについて解説する。
1946年オーストラリア生まれのステラークは、テクノロジーの時代に「生身の身体は時代遅れ」と考え、1970年代、技術大国として世界をリードしていた日本に長期滞在していた頃から身体改造カルチャーを先取りするような過激なパフォーマンスを展開してきた。
1995年、私は東京で彼のインタビューを行っていたが、それから約20年後の2017年、ドイツ・ベルリンのボディサスペンション国際会議にて、彼との再開を果たした。
この会議は、当連載の第1回目で紹介したサスペンションの世界大会「サスコン」を主催しているノルウェーチームが開催したものである。そこでは、ステラークの最新のレクチャーと彼のプロデュースによるサスペンション・パフォーマンスを堪能することができた。
そんな身体改造カルチャーの現場からのレポートをお送りする。
ボディハッキングの先駆者としてのステラーク
2006年、ステラークは自分の耳を型取った素材を左腕に埋め込んで大きな話題となった。彼はそこにさらにマイクを仕込んでインターネットを介し、「第3の耳」で聞いた音を世界配信しようとしている。
「第3の耳」のアイディアは90年代に発表されていたが、ゼロ年代になってやっと実現した。当初、バイオテクノロジーで彼の耳の細胞そのものを培養して埋め込もうとしていたがうまくいかなかったという。
80年代に発表した「第3の手」は腹筋などの動きを電気信号に変換し、ロボットハンドを自在に動かすというもので、テクノロジーによって、人間の機能を拡張してみせた。
胃袋に飲み込むロボットも実際に体験している。胃カメラも同時に飲み込まなければならないのが辛かったが、そのアイディアは、将来、ナノテクノロジーによって実現するだろうと話していた。
最新のテクノロジーを自分の身体と融合させていこうというのが、ステラークが一貫して目指しているものである。
ボディサスペンションの先駆者としてのステラーク
ステラークは、1976年、日本の画廊で最初の吊り下げを披露している。彼は民族儀式の再現ではなく、医学と物理学の知識から様々な吊り方を考案しており、その後の13年間に26種の異なる吊り方のパフォーマンスを行ってきた。そのことは、現代のサスペンションに大きく貢献している。
2012年、彼は66歳でサスペンションを行なったのちは、自らは吊られていない。近年は、ノルウェーチームと共同して複数のモデルを吊り下げるサスペンションをプロデュースしている。
サスペンション国際会議では、5人のモデルを「チェア」という吊り方で吊り下げ、彼らの呼吸音をマイクで増幅し、観客と一体化するような素晴らしいサスペンションを披露した。2013年、米ダラスで行なった6人を円形状に吊り下げたパフォーマンスも非常に美しいものであった。
ステラークが計画する不老不死のパフォーマンス
会議では、ステラークのレクチャーが行われ、その結びでは彼の次なるパフォーマンスについても語られた。
「最近の研究では、心臓が止まってしまった人を機械と接続して延命することが可能になっています。(※)それならば、私は故意に心臓を止めて、心臓の鼓動がしない状態で生きてみたい。それは次に私が真剣に考えているパフォーマンスです」
そう言って、ステラークは自信に満ちた表情を見せた。彼は、不老不死が実現する未来を表現しようとしているのだ。
常に時代の最先端を突っ走ってきた孤高のパフォーマー、ステラークに不可能の文字はない。彼がその一線を超える瞬間には、ぜひとも現場に立ち会いたいものである。
「第3の耳」を持つ男へのリスペクトが止まらない。
(※)HUMANS WITHOUT HEARTBEATS : The Twin Turbine Heart by William Cohn & Bud Frazier(Texas Heart Institute, Houston)
Images and videos courtesy of Stelarc. http://stelarc.org