画像左:女性セブン 記者 祓川 学さん提供、画像右:©︎女性セブン/小学館 135頁 2016年11月24日号より

食料捕獲に愛犬の埋葬まで…洞窟オジさんが生涯愛用する「スコップ」

ゆりどん
公開: 2021-01-19

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連載

Moovooモノ語り

その道の専門家や著名人が愛用品へのこだわりと、それにまつわる物語を綴る連載「Moovooモノ語り」。第28回目は、43年間野宿暮らしをしていた、洞窟オジさんこと加村一馬さん。ドラマ化でも話題になった、想像を絶するサバイバル生活のお供「スコップ」について語ります。

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洞窟オジさん
加村 一馬
群馬県生まれ。両親からの虐待から逃れるため、13歳の時に家出を決意。足尾銅山の洞窟をはじめ、栃木や新潟など転々として、43年にわたり、サバイバル生活を送った。現在は社会復帰し、障がい者施設に勤務。

2015年の実話ドラマ「洞窟おじさん」の主人公に取材!

2015年、リリーフランキー主演のドラマで世の中に衝撃を与え、洞窟でのサバイバル生活を経験した「洞窟オジさん」こと加村一馬さん。

今回は、そんな洞窟オジさんご本人、加村さんの生活に欠かせなかった愛用品、「スコップ」にまつわるお話を取材しました。

ゆりどん

ライター 増田

この度はお電話での取材、よろしくお願いします!
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

よろしくお願いします。

なぜ「洞窟オジさん」に…?

足尾銅山を眺める加村さんの写真

かつて洞窟があった足尾銅山に佇む、「洞窟オジさん」こと加村一馬さん(提供:女性セブン 記者 祓川さん)

加村さんが「洞窟オジさん」になったのは、13歳の時の家出がきっかけ。

第二次世界大戦が終結した昭和20年(西暦1945年)の翌年に生まれた加村さん。戦後直後とはいえ、食事は一日に一回、お風呂は週に一回と、極貧暮らしをしていたのだそう。

ひどいことに、8人兄弟の中でも、加村さんだけご両親から暴力を振るわれていたと言います。

ゆりどん

ライター 増田

ご両親に、一晩中墓石に縛り付けられていたとか…
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

雪の降る日にやるんだもんね(笑)

今となっては笑い話かのように語る加村さん。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

兄貴も結局家が嫌んなっちゃって出ていったんだよね。ひどいなんてもんじゃないよ、鬼だったよね。竹の棒で毎日叩かれてた。体叩くんだよね、バリバリと。

両親の虐待から逃れるため、加村さんは、塩と醤油、干し芋、鉈やスコップなどの道具を持って、家出を決意。

翌日、加村家で飼っていた愛犬のシロが追いかけてきたため、1人と1匹で暮らすことに。

自宅があった群馬県大間々町から、栃木県の足尾銅山まで徒歩で向かったのでした。

ゆりどん

ライター 増田

家を出る時に、なぜスコップを手に取られたのでしょう?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

小さい時から、川をせき止めて魚採りやってたんだよね。最初は穴掘る気はなかったの。でも魚とるより役立っちゃったね(笑)ほとんど穴掘りだったね。
洞窟オジさんこと加村さんがスコップで穴を掘る写真

(提供:女性セブン 記者 祓川さん)

最初はスコップが魚採りに使えると考えたのだそう。

しかし、のちにスコップは洞窟オジさんの人生にとって、欠かせない必需品として愛用していくことになります。

食料捕獲のためのスコップ

足尾銅山の洞窟とその近くに立つ洞窟オジさんこと加村さんの写真

かつて暮らしていた足尾銅山の洞窟と加村さん(提供:女性セブン 記者 祓川さん)

誰もが気になるところであろう、洞窟オジさんの食生活。

家から持ってきた干し芋が底を尽きると、山柿やきのこ、山菜を取って食べていたのだそう。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

山柿は、渋いんだよねみんな。だからそれ全部取っちゃって、穴ん中置いておくの。そうすっと甘くなるんだよね。あとカタツムリも焼いて食った。食わないもんないよ。最初は抵抗あったけどね。

本当に食べられるものがなくて困っていた洞窟生活の最初の頃は、なんとカタツムリも食べていたんだとか。

しかし植物やカタツムリばかり食べているわけにもいかず、そのうちヘビやうさぎ、イノシシなども捕獲するように。

そんな野生の動物を捕獲する時に、家から持ってきたスコップが役にたったと言います。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

スコップはうさぎとりに使えたんだよね。うさぎって穴の中潜ってて、穴が二つあるんだよね。片方の穴を石で抑えて、反対側からスコップで掘ってくわけ。そうするとうさぎつかまんの。
加村さんがうさぎを捕獲する様子のイラスト

加村さんがうさぎを捕獲する様子のイラスト

野生の食べ物の中で一番美味しかったと思うものは何かと聞くと、やっぱりイノシシだね〜と答える加村さん。イノシシは、スコップで落とし穴を掘って捕獲していたのだそう。

ゆりどん

ライター 増田

イノシシを捕まえるための穴を掘るって、相当大変だったのではないでしょうか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

大変なんてもんじゃないよね。木の根っこなんかあるでしょう。固いから鉈で切ってさ。掘るのに2〜3時間はかかったよ。

あらかじめイノシシが出てくる付近へ行き、そこでスコップで穴を掘り、おびき寄せたんだとか。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

俺を見つけるとイノシシが追ってくるのよ。そんで俺が穴のとこ飛び上がると、イノシシは飛び上がれないから、頭から落とし穴に突っ込んじゃうのよね。
加村さんがイノシシを捕獲する様子のイラスト

加村さんがイノシシを捕獲する様子のイラスト

ゆりどん

ライター 増田

イノシシを見つけた時は、怖くなかったんですか…?捕まえて食べなきゃという思いの方が強かったのでしょうか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

もう食うのに夢中(笑)。おっかないなんて意識がないよね。もうね、噛み付くよ。イノシシ一頭とると、だいたい1ヶ月くらい食っていられる。全部干し肉にしちゃうの。でも何回も襲われたことあるね。その時俺がイノシシの皮とか全部しょってて、パンツもイノシシの皮だったから(笑)足も靴なんかないから、全部イノシシの皮で作ったよ。イノシシって臭いでしょ。だからイノシシが臭いを嗅いで仲間だと思って寄って来るんだよね(笑)面白いよ、くっついてくんの。

一歩間違えば襲われて命を落としていたかもしれないエピソードを、笑い話に繋げて語ってくれた加村さん。

どうにもこうにも、自分自身と愛犬のシロの命を繋ぐために、必死だったと語ります。

ゆりどん

ライター 増田

この時は、スコップあってよかったな〜と感じた瞬間はいつですか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

やっぱりイノシシの罠の穴掘った時だよね。でっかいスコップ持ってっ
たんだけど、それが半分になっちゃったよね。すり減って小さくなっちゃった。

生きていくための、食料の捕獲に欠かせなかったスコップ。加村さんも、まさか持ってきたスコップでイノシシを捕まえるとは思っていなかったようです。

愛犬シロとお別れするためのスコップ

家出した当時、加村さんは一人でこっそりと家を抜け出したようですが、なんと一日置きで追いかけてきてくれた愛犬のシロ。小屋のロープで、頑丈に縛り付けられていたにも関わらずに。

ゆりどん

ライター 増田

シロが追いかけて来た時はどんなお気持ちでしたか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

そりゃあ嬉しかった。あの犬は雑種だったけどものすごい利口な犬だった…。犬の話すると涙出てくるね。

鼻を少しだけすする加村さん。洞窟暮らしをしていた時も、シロに何度も助けられたそう。

加村さんが愛犬シロとのエピソードを語った女性セブンの誌面

加村さんが愛犬シロとのエピソードを語った女性セブンの誌面 ©︎女性セブン/小学館 53頁(2004年1月15・22日合併号より)

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

食いもんがなくて、あ、これでもう死ぬんだなと思ったの。そしたらシロが、うさぎくわえてきてくれたんだよね。本当に利口な犬で。

食料が尽きた時、加村さんだけでなくシロも弱っていたはずですが、力を振り絞ってうさぎを捕まえてきてくれたのだそうです。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

熱ものすごく出したのよ俺が。汗はすごく出てくるし、これはもうダメだなぁと思って。三途の川渡る夢見たのよ。渡り始めた時、シロがうんっと耳引っ張るのよ。それで目が覚めたよ。

まるで三途の川から、「戻ってきて!」とシロが呼び止めているかのように、耳を引っ張ってくれたと言う加村さん。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

洞窟のすぐそばにさ、池みたいな、水が貯まるところがあったから、そこで頭冷やしたの。そしたらそれをシロが見て、着るもんの布があったからさ、布を加えてわざわざ川の方まで行って濡らしてきて、その布を頭の上にかけてくれるんだよね。泥だらけになってたけどね。すごい利口だった。俺が自分でそれやってたから、それ見てやってくれたんだろうね。

懐かしそうに、愛犬との当時の洞窟サバイバル生活を語ります。

唯一の大切な家族だったシロは、加村さんの命の恩人でもありました。

足尾銅山を眺める加村さんの写真

かつて洞窟があった足尾銅山を眺める加村さん(提供:女性セブン 記者 祓川さん)

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

足尾銅山、何年くらいいたのかなぁ…。よくわかんねぇけど、3、4年くらいはいたのかね。そんでシロが銅山で死んだの。信じられなくて、死んだシロを3.4日くらい抱いて寝てたよ。山へ抱いて行って、蘭の花があったから蘭の花を置いてやったの。

加村さんが住んでいた洞窟がある足尾銅山付近は、当時ほぼ岩山で、自然があまりなかったそう。なのでシロを抱いて山へ行き、蘭の花が一面に咲いている場所に埋めてあげたと言います。

洞窟での苦楽を共にしてきたパートナー、シロにお別れを告げる時も、いつもの使い慣れたスコップで。

新しい生命を芽吹かせるためのスコップ

食料を捕獲する時も、愛犬との別れの時も、洞窟オジさんの右手には常に、相棒であるスコップがありました。

当時使っていたスコップはなくなってしまったようですが、社会復帰された今でも、加村さんはスコップを日常的に使っているようです。

加村さんが現在使っているスコップの写真

加村さんが現在ブルーベリー畑で使っているスコップ(提供:施設職員 保嶋 のり子さん)

現在加村さんが住んでいるのは、生まれ故郷である群馬県の知的障がい者の自立支援施設。

そこの親切な理事長とご縁があって、住み込みで働くようになったそう。今はログハウスが建ったようですが、その当時加村さんには、プレハブ小屋が与えられたそうです。

ゆりどん

ライター 増田

今の施設へきたばかりの頃は、また山へ行ってスコップで穴を掘って隠れ家を作られていたと本で読みましたが…(笑)
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

やったよ。嫌になっちゃって(笑)イライラしてしょうがねぇから。裏山に掘った穴に行くと、落ち着くのよね。
ゆりどん

ライター 増田

長年住んだお家みたいなものですものね。当時ここへきた時の最初の仕事は、ご自身の著書のある通り、工事現場のお仕事だったのでしょうか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

そうそう。でもバカにされちゃって。一日2,000円だよ。それでしかも文句も言われるからやめちゃって。

施設へ来た当初は、施設内での仕事ではなく、理事長のススメで社会勉強も兼ね、施設外の工事現場で働くことに。

ゆりどん

ライター 増田

大変だったのですね…。今はどのようなお仕事をされているんですか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

今は施設のあっちこっち壊れたところの修理とか、掃除したり。あとブルーベリー任されて、ブルーベリーやってんのよ今。
ゆりどん

ライター 増田

加村さんが育てたブルーベリー、圏外からも注文が届いて大人気だとか。詳しく聞きたいと思っていました!
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

そう?今でもブルーベリー畑でスコップ大事に使ってるよ。このスコップはもう10年くらい使ってる。
ブルーベリー畑をスコップで耕す加村さんの写真

ブルーベリー畑をスコップで耕す加村さん(提供:施設職員 保嶋 のり子さん)

ゆりどん

ライター 増田

長いですね…!最初は施設の理事長が育てられているとのことでしたが、中々うまくいかないので加村さんにお任せされた、と伺いました。ブルーベリーは育てるのが難しいのでしょうか?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

はじめは専門の先生に育て方を教わったんだよね。最初は苗木が4、50本だったのよ、それを今の327本までに増やしたの。鹿とか入れないように全部柵しちゃって。だって今すごいよ、ブルーベリー。木がでかくなっちゃって。東京の方から(注文が)くるんだもの。でかくて柔らかいのよね。ジャムとかも作ってる。

笑いながら自慢げにお話する加村さん。

ゆりどん

ライター 増田

少年だった頃から大人になるまで、加村さんはずっと色んな場面でスコップを使われているんですね。
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

スコップはね〜。結構使うよ。
ゆりどん

ライター 増田

今でも、裏山の穴に行かれることってありますか?
加村 一馬

ライター 増田

たま〜にあるよ。イライラしてると、すぐ裏山で穴掘っちゃうのよ。そこへ行って1時間くらい休んでくんの。落ち着くんだよね。本当に。

加村さんにとって、スコップを使いこなして穴を掘ることは、もうお茶の子さいさいのよう。

自分自身が20年後、30年後、40年後に、今使っている愛用品を、加村さんのように使っているかと聞かれたら、想像できない人も多いのではないでしょうか。

でももし、何か一つでもこだわりを持って使っていたら、そこにはあなたの愛用品にまつわる人生のモノ語りが、きっとあるはずです。

ブルーベリー畑をスコップを手に持つ加村さんの写真

(提供:施設職員 保嶋 のり子さん)

<参考文献>
加村一馬、『洞窟オジさん』、文庫判/320頁、小学館(2015年 9月8日発売)

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おまけ:洞窟オジさんのタイムスリップ経験談

洞窟で数年暮らしたあと、現在の施設にくるまでは、関東の各地で野宿して過ごしていた加村さん。

洞窟から出て山を下ったときは、世界が変わりすぎてて何が何だかわからない状態だったそう。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

山から降りたでしょ、そん時はもう他の国きたのかと思ったよね(笑)変わっちゃって。テレビに色はついてるし。はっはっは。まるっきり何もわかんなかった。
ゆりどん

ライター 増田

まだ加村さんが小さかった頃はテレビは白黒でした?
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

白黒も黒もなく、街頭テレビっていうのがあったけど…。今の人じゃわかんないだろうね。街頭テレビなんて言っても今の人誰もわかんないと思うよ(笑)
街頭テレビに群がる人たちの写真
加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

今の携帯電話あるでしょう。川で小ちゃいもん耳につけてなんか喋ってるからさぁ。携帯電話、俺知らないじゃない。頭狂っちゃったのかなこの人と思ったよ。見るもん全部変わっちゃってたからね。地獄にきちゃったのかと思ったよ(笑)

13歳で家出をし、しばらくは洞窟暮らしだったので、街へ出て来た時はお金の使い方もわからなかった加村さん。

加村 一馬

洞窟オジさん(加村 一馬さん)

お金なんて使ったことなかったからね。パンなんか買う時、一万円札出すと、お金いっぱいくれんのよね。こりゃすごいなぁと思って。また一万円札出すでしょう。そうしてくと金がどんどん貯まっちゃって。ポケットに入りきらなくなっちゃって。逆に増えちゃってんのよ(笑)

違う国どころか、この世界での生き方が、右も左もわからない状態だったのでしょう。

それでも、たった一人でこの世界を力強く生き抜いてきた加村さん。そんな加村さんの人生の物語は、コロナウイルスで職を失ってしまった現代の人々に、希望を与えてくれるかもしれません。

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  • 小学館
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