フードアーティストの手作りリップクリーム 材料は森からいただく蜂蜜【Moovooモノ語り】

諏訪 綾子
公開: 2021-01-12

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連載

Moovooモノ語り

その道の専門家や著名人が愛用品へのこだわりと、それにまつわる物語を綴る連載、「Moovooモノ語り」。第27回目となる今回は、アーティストの諏訪綾子さん。「食」をテーマに作品制作を行っている諏訪さんが愛用するリップクリームは手作りだそう。今回はリップクリームの材料である蜂蜜について語ります。

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アーティスト
諏訪 綾子
2006年よりfood creationを主宰。本能的な無意識の感覚に訴えることのできる表現の媒体として「食」を扱い、感情、記憶などの内在する感覚を「あじわい」で伝えることで体験者に新たな問いや発見をもたらす作品が特徴。プロフィール写真撮影:松岡一哲

森の贅沢な朝食


ある朝、目覚めとともにメッセージが届く。
「これから蜂蜜絞りにいきますがご一緒しませんか」
30分後、私はあのネット付きの帽子を被り、ミツバチが飛び交う中にいた。

<alt>養蜂場の写真


ここは養蜂家の抱井昌史さんと武川耕太郎さんの「Bee Farm 道志」の養蜂場。
視界の98%が鮮烈な緑色という森に囲まれた里山で、養蜂をしている。
並んだ巣箱のひとつから、昌史さんが巣枠を取り出すとミツバチがびっしり。
専用のブラシでやさしくミツバチを払い、専用のナイフで蜜蓋を切り落とす。

<alt>抱井昌史さんと武川耕太郎さん


今にもしたたり落ちそうな蜜で満たされた巣枠を遠心分離機にかける。
さらにそれを濾過すると、黄金色に美しく輝く光が、とろーりとろーりと、途切れることなく流れでてくる。

<alt>はちみつの写真


採れたての蜂蜜。
待ちきれずにひとすくい味見させていただく。
胃に到達する前に、舌に、喉に、沁み込んでいく。
花や植物の気配がする透き通ったあじわい、余韻で身体の内側が喜んでいるのがわかる。
そこへ、耕太郎さんが差し出したのは、生きたハチの子。
今度はハチの子に蜂蜜をかけていただく。
森の豊かさがぎゅっと凝縮された、濃厚なあじわい。
なんて贅沢な朝食だろう。
いつのまにか私は肌色の動物になって、アニメで見たクマのように夢中になって森のテイストをあじわった。
目覚めから1時間後の贅沢。

ミツバチを通して考える自然の摂理


ミツバチ1匹が一生で集める蜜はわずかティースプーン1杯ほどだそうで、私たちはミツバチたちからその貴重な蜜のお裾分けをいただいている。
そしてこの里山では、農作物の受粉にミツバチが大きな役割を担っている。
さらに森では、ミツバチによる受粉によって植物は茂り、動物たちの生きる糧となる。
動植物の多様性に満ちた健全な森からは、美しい水が湧き出て、わたしたち肌色の動物もまた多くの恩恵をうけることになる。

だからといって、抱井さんたちは、必要以上にミツバチを増やしたり蜂蜜を採ったりしない。
増やそうと思えばもっともっと増産することもできるだろう。
だけど、今の規模で充分だと言う。
足るを知る、無理も無駄もない、そんな美しい姿勢が、このあじわいを生み出している。

限りある自然と人間との距離感について考える。

蜂の巣の写真


この森に来てから1年半が経つ。
15年間活動の拠点としていた東京から、富士山麓にある森の中へ。
今は東京とこの森のアトリエを行き来しながらの日々。
その間に世界的なパンデミックが発生し、世界は変わった。
私の生活も、ある意味で贅沢に、東京で眠らせていた野性が試される日常へ劇的に変化した。
時間の使い方も大きく変化して、自然に振り回される自由を満喫する日々。

ある時、村の先輩が言った。
「朝起きていちばんに外に出る。空をみて深呼吸して、気温や湿度によって、今日のしごとを決める」

翌朝、目覚めるといちばんに外へ出た。
雨が降っている。低い雲が立ち込めていて、しばらく雨はやみそうにない。
今日はアトリエの中であの蜂蜜と蜜蝋でリップクリームをつくることにする。
そんなふうに私は「今日のしごと」を決めた。

森で取れた素材を使った手作りリップクリーム


リップクリームはいつもポケットに入れて持ち歩く。
こどもの頃から唇が乾燥するとからだのすべての感覚が鈍るような気がして、2-3時間おきにリップクリームを使っている。
愛用歴は数十年、使わない日はない、たまに忘れて出掛けると落ち着かない。
ずっと購入したリップクリームを使用していたけれど、使い心地はものによってさまざまで、常に理想のリップクリームを探していた。
それなのに使えば使うほど唇が乾いてしまい、ますますリップクリームが手放せなくなる。
ある時ふと自分で作ってみた。とても簡単にできて、当然ながら材料も自分にあったものを選ぶことができる。
だからここ10年ほどは、自家製リップクリーム。
テクスチャーや匂いなども、好きな感じを追求して、やっぱりいつもポケットに入れている。
材料は、ホホバオイル、蜜蝋、精油、蜂蜜。
余計なものは入っていないから、まとめてつくって冷蔵庫で保管しておく。


そんな私のささやかな日常であるリップクリームに、新時代がやってきた。
森での贅沢な朝食をいただいた私は、抱井さんたちの美しい蜂蜜と蜜蝋をわけていただき、アトリエへ持ち帰ってきた。
さらにアトリエには、森の間伐材であるヒノキの葉を蒸留した精油もある。
森を健全に保つために間伐された樹木の幹は、材木にしたり薪にしたりと利用されるけれど、枝葉は捨てられてしまう。
その捨てられるはずの枝葉を蒸留することで、凝縮したエッセンスともいえる精油を抽出することができる。
ヒノキの精油はこの夏発表した作品に使用したものだ。
ホホバオイルをベースに、蜂の巣を精製して取り出した蜜蝋で固める。
蜂蜜の保湿と抗酸化作用効果、それからヒノキ精油の殺菌効果を加えて、つくっている最中から深呼吸したくなる心地よさ。


できあがったリップクリームは、森の匂いがする。
つけるたび、森の循環の一員になる感覚をあじわえる、そんなとても贅沢な森のリップクリームを愛用しています。


リップクリームの画像
PICK UP!
  • Bee farm道志
  • 森のはちみつ 130g

  • 税込1,200円
  • 森の豊かさが凝縮された濃厚な味わいの蜂蜜

  • 山梨県の道志村で取れた蜂蜜。
    5月から6月に咲く、たくさんの花から取れた百花蜂蜜で、コクがあり香りも豊か。


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