動画ライターの砂流(すながれって読みます)です。
ゲームやeスポーツに関する取材をおこなう動画コラム、今回はゲーム音楽の神さま(だと僕が思っている)イトケンさんこと伊藤賢治さんに取材をしてきました!
イトケンさんは「サガ」シリーズや、「聖剣伝説」シリーズなどの音楽を手がけられている作曲家。ファンのあいだではイトケンさんが作る曲は「イトケン節」と呼ばれており、特にメロディーラインが超かっこよくてテンションがだだ上がる戦闘曲の数々が有名です。
実際にゲームをプレイしていなくても“七英雄”とか“四魔貴族”と言われればなんとなく「あー! あの曲!」となるゲーマーも多いのではないでしょうか。
イトケンさんは、2018年12月に配信開始になったサガシリーズの完全新作『ロマンシング サガ リ・ユニバース』でも音楽を担当されています。僕は毎日欠かさずプレイしているのですが、「音楽が聴きたい」がもしかしたら気持ちの半分以上をしめているかもしれません。「嘘だ!」と思われる方もいるかと思いますが、ゲームの開始画面に「ヘッドフォンでプレイすると、よりSaGaの世界を楽しめます。」ってわざわざ書いてあるくらいゲーム音楽を聞きたくなります。きっと僕みたいな人が少なからずいるはず……。それぐらい音楽がかっこいいんです。
▲『ロマンシング サガ リ・ユニバース』の画面
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ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI
今回は、そんなイトケンさんに「どうやってゲーム音楽をつくっているのか」「影響をうけた音楽」といった音楽に関することや、「ゲーム音楽のライブ」についてなどをお話を伺いしました。
■『サ・ガ2 秘宝伝説』の曲は試用期間中に作った
まずは初めて作った曲についてお話を伺いました。
伊藤:スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社してはじめて作ったのは『サ・ガ2 秘宝伝説』の曲です。植松さん*と共同で楽曲制作をしたんですけど、僕が入ったときは既に開発がはじまっていて。だから、入社してすぐの試用期間中につくりました(笑)。
砂流:使用期間中に人の思い出に残る曲をすでに作曲されていたとは・・・! ちなみに、入社してすぐってことはゲーム音楽の作りかたをまだよく分かっていなかった頃ですよね?
伊藤:そうですね。だから、「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」、「ウィザードリィ」に絞って勉強のために分析をしました。当時のサウンドトラックって譜面が1曲、2曲ついていたんですよ。ドラクエは特に譜面がついていたので「あ、これ、すぎやま(こういち)さんのスコアだ。戦闘曲もある。よし打ち込んで分析してみよう」という感じで分析をしましたね。
砂流:初めて、一つのゲーム作品すべての楽曲を一人で担当したのはどの作品ですか?
伊藤:初めてひとりでつくったのはゲームボーイ版『聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-』ですね。当時のゲームは20曲~30曲くらい収録するのですが、だいたい3ヶ月くらいで制作しました。
*「ファイナルファンタジー」シリーズの楽曲を手がけられている植松伸夫さんのこと。当時は、スクウェアでゲーム音楽をつくる人が植松伸夫さんしかおらず、二人目のゲーム音楽作曲者として入社したのがイトケンさん。
■曲作りの一端を実際にみせてもらった
イトケンさんの作曲の仕方は即興スタイル。例えば、町の曲であれば「こんな町かな?」と思い浮かべながらどのコードがいいのかを探っていって、良いものができたら、メロディーとコードを楽譜におこしてアレンジをするそうです。実際に即興で曲作りをおこなう様子の一端を見せてもらいました。
伊藤:例えば、下降進行というコード進行があります。バロック時代にいた作曲家のパッヘルベルの『カノン』だったり、山下達郎さんの『クリスマス・イブ』でも使われている有名な進行なんです。このコード進行はよく使ったりします。
(カノンを弾く様子。動画を参照ください)
砂流:「イトケン節」はこういったコード進行からきているんですか?
伊藤:平たくいうと自分でもよくわかってないんですよね(笑)
砂流:そうなんですか(笑)
伊藤:よく言われるのは、3連符だとか、半音を使うというところ。
(実際に弾いてもらっています。動画を参照ください)
こういうのをよく使うっていう特色があるかもしれないですね。
砂流:なるほど。確かに「イトケン節」を感じました! イトケンさんって音楽を作るうえで影響を受けた人っているんですか?
伊藤:さだまさしさんの影響があるかもしれないですね。さださんがインタビューで話していたことなんですけど、さださんは幼少よりバイオリン奏者を目指されていたのですが、「バイオリンは半音階が重要で、半音をいかに使うか、もしくは、いかに歌うかに自分の特色が出ている」と、さださんがおっしゃっていて。ですので、バイオリンは弾けないですが、バイオリンの影響があるかもしれないですね。
(実際に弾いてもらっています。動画を参照ください)
「音楽に詳しい人は、9th(ナインス)のメロディーからはじめるんだ」というのが分かると思うんですけど、半音を使うところが自分の特色かも知れないですね。
砂流:めっちゃ面白いです! 今の即興で作られたんですか?
伊藤:即興です。
砂流:凄い!
伊藤:あと、「バラード曲として良いものはテンション上げてロック系にしても良いはずだ」という自分の中の定義はありますね。
砂流:どういうことでしょうか?
伊藤:例えば、サガシリーズで作っているバトル曲って本を正すと全部の曲がバラード曲になります。
砂流:え!? 四魔貴族のバトル曲もですか?
伊藤:『四魔貴族バトル1』はロックっぽい曲の代表だと思いますけど、バラードみたいに弾けますよ。
砂流:うおおぉ! 「イトケン節」がなんたるかが垣間見えた気がします。
■ゲーム音楽は双方向だから盛り上がる
ゲーム音楽は何十年前に聴いていたものでもすぐに口ずさめたり、いつまでも色あせずカッコイイ印象があります。これはなぜかをイトケンさんにぶつけてみました。
伊藤:たぶん唯一の双方向なメディアだからだと思います。映画は観ているだけでストーリーが進んでいきますが、ゲームは自分でやって進めるしかないですよね。でも、自分でやるからこその思い入れが出てくる。そういう部分の力が大きいと思います。
砂流:なるほど、双方向はゲームならではですね。ゲームならではといえば、数十秒、下手したら開始数秒で戦闘が終わることもありますが、そういうところは意識されていますか?
伊藤:はい。イントロ命だと思っています。「イントロでユーザーの襟首をグッと掴む」みたいなイメージで、なるべくインパクトのあるものにしようという意識はしています。
砂流:確かに数秒で心をつかまれています(笑)。戦闘曲って人によっては何千回、何万回と聞いていると思うのですが、飽きさせないためにどういう工夫をされているんですか?
伊藤:「計算しない曲作り」ですね。自分が盛り上がれるかどうかを大切にしています。同じ人間ですし、自分が盛り上がればそうそう外さないだろうというのが、シンプルでいいなと思っています。
■デビュー30周年!やりたいのは「ライブ」
イトケンさんは定期的にゲーム音楽のライブに出演したり、2019年1月には自身が主催者となり対バン形式で「FACE to FACE」というイベントも開催しました。2020年3月で作曲家としてデビュー30周年となるイトケンさんに「30周年になにをやりたいか」を聞いたところ、答えは「ライブ」でした。
伊藤:2019年12月には「サガ」シリーズが30周年、2020年3月はデビュー30周年ということもあり「イトケン何がしたい?」と聞かれることが多いのですが、まっさきに浮かぶのがライブです。演奏したいんだなぁと。
砂流:演奏していて気持ちのいい曲はありますか?
伊藤:これは難しいですね……。ロック系だとみんなで盛り上がれるのでそれはそれで楽しいし、バラード系のようにアコースティックでやったりすると、客席からすすり泣きが聞こえるんですよ。
砂流:え!?
伊藤:「聖剣伝説」のコンサートを2016年に中野サンプラザでやったんですけども、1曲目を弾いたときに、きっといろいろ思い出してくれたんでしょうね。会場からすすり泣く声が聞こえて。これには、自分も泣いてしまいそうになるぐらい感動もしました。だから、選べないですね。
砂流:音楽を作っていて良かった瞬間ですね。
伊藤:ライブは、そういうクリエイターが思ってもいないようなものをユーザー、リスナーから垣間見えたりするので好きですね。答えあわせができる感じです。
砂流:最後に、お墓に持って行きたいゲームを教えてください。
伊藤:お墓にもっていきたいかまではわからないけど、今思い浮かんだ作品が2つあります。ひとつはスーパーファミコン版の『スターフォックス』、もうひとつは『サクラ大戦3 〜巴里は燃えているか〜』です。『スターフォックス』は自分が作る音楽にも似ている気がしてそれも好きで。『サクラ大戦3』は、1も2ももちろんやっているんですが、巴里編はキャラクターだったり、ストーリーだったり、田中公平さんの主題歌だったり、すべてがエンターテインメントとして感動したというのがあって、この二つが好きです。
■まとめ
僕がゲーム音楽の神さまだと僕が思っているイトケンさんにお話を伺い、そして即興で演奏もしていただけました。イトケンさんが演奏されている様子はぜひ音量を上げて聴いていただければと思います。
また、「もっとイトケンさんの音楽が聴きたいよ!」となった方は、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』をプレイしてみてください。まだゲームが配信されてから100日くらいで、今から初めてもじゅうぶんに楽しめますし、音楽も堪能できます!
あと忘れてはいけないのがライブです! ゲームをプレイしたことある方なら思い出補正も加わってテンションだだ上がりになること間違いなしなので、ぜひ一度ゲーム音楽のライブに足を運んでみてください。
最後になりましたが、イトケンさん、ありがとうございました!
ライター 動画ライター
砂流 恵介
「悩むくらいなら、とりあえず買う」をモットーに日々ガジェットを購入しています。元秋葉原のパソコンショップ販売員&店長代理、PCメーカーの宣伝広報。パソコン、カメラ、ゲーム、マンガ、アニメが大好きです。